
精神科看護師って、正直「怖い」イメージがある。患者さんに暴力を振るわれそうだし、働くうちに自分のメンタルまで病んでしまいそうで、一歩踏み出せない。
精神科看護師に興味はあっても、ネットや噂で目にするのは「怖い」「大変そう」といった話が多いです。
精神科看護師は怖いというイメージが先行してしまい、不安が勝ってしまう方も多いのではないでしょうか。
そんな精神科への漠然とした恐怖心を抱えている看護師さんにこそ、ぜひ一度手に取ってほしい一冊があります。
それが、水谷緑さんの漫画『精神科ナースになったわけ』です。


可愛らしく愛着が湧くイラストとは対照的に、精神科の現場で起こる出来事や空気感が、驚くほどリアルに描かれています。漫画なので忙しいナースでもサラっと読めてしまうのもおすすめポイントです。
これまで私自身、精神科関連の書籍をいくつか読んできましたが、ここまで現場のリアルな「光」と「影」を、誇張せず丁寧に描いている作品は他にないと感じました。
結論としてこの本は、精神科看護師に興味はあるけれど「怖い」という気持ちが拭えない方、転職を考えているものの現場のイメージが湧かずに悩んでいる看護師さんに、ぜひ読んでほしい内容です。
なぜここまで現場を忠実に再現できているのか——その理由は、あとがきを読んで納得しました。
この漫画は、精神科看護師をはじめ、作業療法士や医師など、実際に精神科医療に携わる方々への取材を重ね、監修のもとで描かれた作品だったのです。
「久しぶりの精神科、怖いかも」そんな不安を救ってくれた一冊
私自身、精神科クリニック(デイケア)への転職が決まったとき、久しぶりの精神科現場に対して「精神科病棟を離れて10年近く、果たして今の自分に務まるだろうか」という不安を強く感じていました。
そんなとき、藁にもすがる思いで精神科関連の本を読み漁る中で、一番「正体の分からない怖さ」を和らげてくれたのが本書でした。
読んでまず驚いたのは、その圧倒的な再現度です。

「昔担当した患者さんに似ている」「この空気感、現場そのまま」と感じるエピソードが次々と浮かび、懐かしさとともに、必死で患者さんと向き合っていたあの頃を少しずつ思い出しました。
精神疾患の症状や病棟の雰囲気がとても具体的に描かれているからこそ、精神科看護師は怖いというイメージが、少しずつ「理解できるもの」へと変わっていきました。
「怖い」と感じる正体は、多くの場合「知らないこと」への不安です。
本書を通して現場の解像度が上がったことで、私の中の恐怖心は、自然と覚悟と納得感に変わっていきました。
➡関連記事:【看護師を辞めたいあなたへ】辞める前に“精神科への転職”という選択肢も考えてみませんか?
「精神科看護師は怖い?」その正体が見えてくる、リアルすぎる3つの描写
本書には、精神科看護の現場にある「きれいごとでは済まされない現実」が、逃げずに描かれています。
精神科看護師になるのは怖い——そう感じてしまう理由の多くが、このリアルさに触れることで少しずつ言語化されていきます。
1. 「暴れる」だけが怖さじゃない。うつ病のリアルな描写
精神科=怖い、というイメージは「暴れる」「興奮状態」といった場面を想像しがちです。
しかし本書が描いているのは、もっと静かで、見えにくい苦しみです。

特に印象的だったのが、入院病棟におけるうつ病患者さんの描写です。「何もできない」「意欲が湧かない」という状態の裏にある、言葉にならない焦りや苦痛が表現されていました。
筆者自身も精神科病棟で似た場面を何度か見てきましたが、本書を読みながら「あの時、患者さんはこんな気持ちだったのかもしれない」と、ハッとさせられました。
精神科看護師が怖いと感じてしまう理由が、少しずつ「理解したい」という感情へ変わっていく描写です。
※本書105ページ〜
2. 精神科看護師が抱える、辞めたくなるほどの苦悩
精神科の現場は、誰にでも向いているわけではありません。
本書では、精神科看護師が「辞めたい」と感じてしまう瞬間や、その背景にも触れられています。
なぜ続けられなくなるのか。
どこで心がすり減っていくのか。
その描写があまりにもリアルだからこそ、読む側も「自分だったらどうするだろう」と自然に考えさせられます。
精神科看護師は怖い仕事なのか、それとも環境次第なのか——判断するヒントが詰まった章です。
※本書90ページ前後
3. 心に突き刺さる「避けるべき最大の敗北」
物語の中で語られる「避けるべき最大の敗北」について。
これは、精神科看護師が日々背負っている責任の重さを象徴していると感じました。
命を守る現場には、常に緊張感が伴います。
確かにそれは「怖い」と感じる瞬間でもあります。
それでも、この章を読んで感じたのは、その怖さが「命と向き合うプロとしての誇り」と紙一重であるということでした。
精神科看護師は怖い——その言葉の奥にある、本当の意味を考えさせられる印象的な場面です。
※本書102ページ~
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なぜ、この漫画は「本物」だと感じたのか
冒頭でも触れましたが、あまりにも描写がリアルで、思わず「水谷さんは実際に精神科の現場で働いた経験があるの?」と思ったほどでした。
ですが、背表紙を読んでその理由に納得します。
本書は、実際に精神科看護師をはじめとする多くの医療従事者へのインタビューをもとに制作された作品でした。
現場の声が一つひとつ丁寧にすくい上げられているからこそ、私たち看護師が読んでも違和感がなく、「これは本物だ」と感じられる血の通った内容になっています。
➡関連記事:精神科看護師を辞めたいあなたへ。転職前に知りたかった「続けるor辞める」の判断基準
さいごに:この漫画を読んで、精神科看護の「本質」が見えた理由
『精神科ナースになったわけ』を読み終えて、まず最初に浮かんだのは、「精神科って、こんなにも人間くさい場所だったんだ」という思いでした。
精神科と聞くと、「怖い」「特殊」「自分には向いていないかも」と感じる看護師は少なくないと思います。
正直に言えば、私自身も現場を知るまではそう思った経験があります。
でもこの漫画は、病名や症状を説明するだけの作品ではありません。
そこで働く看護師や、関わる患者さん一人ひとりの人生や感情に焦点を当てて描かれています。
だからこそ、読み進めるうちに「怖い」という感情よりも、「分かろうとする気持ち」が自然と湧いてきました。
完璧な対応ができる看護師なんていません。
迷いながら、悩みながら、それでも目の前の人と向き合おうとする。
その姿こそが、精神科看護の真髄なのだと、この漫画は静かに教えてくれます。
精神科に少しでも興味がある人、今の働き方に疲れて「別の選択肢」を探している人にとって、この一冊は、きっと視野を広げてくれるはずです。
忙しい毎日の合間に、さらっと読めるのに、読み終えたあとにじわっと心に残る。
精神科を知る入口としても、看護師として立ち止まるきっかけとしても、読んでよかったと思える一冊でした。
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